赤沢の木
国道362号を本川根方向に走ってくると、大川地区へは八幡の駐在所の所で、道をわかれることになる。道はそこから一気に、山村らしいたたずまいを帯びてくる。川沿いの道は勾配もゆるやかで、空気が、さっと変化する。
赤沢の集落をぬけたあたりの 藁科川の浅瀬に、一本の木がある。
去年9月の台風15号のときに、上流から流されて来たのか、それとも元来そこにあったものが取り残されたのか。記憶が定かではないけれど、台風で痛めつけられたのはたしかだ。
幹は大きくかたむき、根元は流れにさらされてむきだしになっている。
このときの出水で、山が崩れ木がなぎ倒されて、大きく川床が変わってしまった藁科川を、象徴するような木だと思う。
9月以来、その木はだんだんと勢いをなくしてきて、冬になると枯れたようにひっそりとしていた。
やはりだめなんだろうか、と思っていた。大間から先の林道は、復旧のめども立たないし、川は浅瀬ばかりで泳げるような場所もない。鮎だっていなくなってしまっただろう。別の川のようになってしまった藁科川。
そう思いながら、毎日見ていた。
だから春先になって、その木がふたたび芽吹いてきたのを車窓に見つけた時、とてもうれしくなった。
木は、葉をつける枝をえらんで他を枯らしながら、生きながらえている。
条件がどんなにわるくても、振ってわいた不運をかこつことなく(あたりまえだけど)、淡々と与えられた生を生き抜いている姿に、日々力をもらっている。