ラーメンは“ポップス” 葉加瀬太郎 音楽家のひとりごと
11月21日 静岡新聞夕刊
(前半略)
ラーメンには各地の歴史や地域性があり、色々なアイデアが盛り込まれ、バラエティーに富んでいる。そばはベートーベンのソナタをどこまで追求していくかに似て、そばを打ち続けて極める世界だが、ラーメンはポップスみたいなもの。いろいろ混ぜていろいろなことを試しながらも一本筋が通っていないと、ごちゃごちゃしてまずくもなるし、驚くほどうまくもなる。
札幌市にあるラーメン店は、そのために現地に前乗りする店の一つ。味噌ラーメンが宇宙で一番おいしく、10年ぐらい通っている。ここは、行くたびに初めて食べたときに感じた感動を味わえる、すごい店なのだ。
ラーメン店によくあるが、人気が出ると路線を変更して、利潤を追求するようになり、魂を売る店がある。毎年、定点観測していると、スープや麺、店の雰囲気が変わり、味がスパッと変わっているのがわかる。
同じ味を維持するのは、小さな革命をずっと続けないとできない。要は味がうまくなるということより、同じ味を維持することがどれだけ難しいかということだと思う。そうやってのれんを守り、作りてはいつも勉強しなければいけない。
(略)
くだんの札幌の店の店長は、休日はラーメンの食べ歩きをし、新しい店のラーメンに学び、自分のスープに生かしていると聞く。僕も自分のショーが飽きられないように、葉加瀬のコンサートに行ったら、いつも感動があるよねといわれたい。聴衆は耳が肥えていて、僕が魂を売ったらすぐに見破られるだろうなと毎回、肝に銘じている。
音楽家と料理人は似ている。世界中の文化を取り入れ、新しいものを作るエンターテインメントでありおもてなし。僕が好きなのは伝統と新しいものがうまく融合しているラーメンだ。