悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

たゆたえども沈まず(原田マハ)

舞台は明治時代のパリ美術界。実在の美術商、林忠正と、同時代の売れない画家フィンセント・ファン・ゴッホの間に親交があったかどうか、実は定かでないという。史実と想像をからめて、この時代の熱感が生き生きと描かれており、一気に読了した。
 

セーヌ川はパリの中心部に位置し、パリはセーヌ川の中州にあるシテ島を中心に発展していった経緯がある。「たゆたえども沈まず」は氾濫など災害にも決して流されることのないこの島にあやかるため、川を行き交う漁民・船員がおまじないとして口にしていた言葉だが、徐々に市民にも広まっていった。(ウィキペディア

Fluctuat nec mergiturラテン語は、パリ市の紋章にも刻まれているらしい。

無名の東洋人から、パリで一旗揚げると決意して上り詰めていく林

狂気をふかめつつカンバスに対峙するフィンセント

2人を後座さえする重造、フィンセントの弟テオ、その妻と、それぞれの人間らしさがつくづくと胸に迫った。特に、なんの絵画的素養もなかったテオの妻が、フィンセントの油絵に囲まれて「生(ブリュット)」と表現する場面に、私は惹かれた。

 

表紙はゴッホの代表作「星月夜」ここに至ったゴッホの軌跡を想いつつ、林や重造、テオらがしみじみと眺める場面も胸に響く。私はからきし美術音痴だけど、マハさんの他の美術文学作品、読んでみようと思います。