どんこちゃんの話
こんな私だって(どんな私だよ)、人生に一度だけ、ぬいぐるみを買ったことがある。
そのころ私は、せっかく就職した会社をやめてしまって、無謀な大学受験に挑戦しようとしていた。
不思議な縁をたよって、入ってもいない予備校の寮にもぐりこんだものの、まったく知らない土地の一人暮らしだった。
そんな中央線・武蔵小金井駅の駅前の、西友で買ったぬいぐるみ。
たしかちょっとほつれたところがあって、1000円ぐらいのワゴンセールだったと思う。
「このわたしが、18にもなってぬいぐるみを衝動買いするなんて」と思いながら、寮までの道をかかえて歩いたのを覚えている。
その頃実家では、どんという名前の犬を飼っていたので、「どんこちゃん」にした。
ひとり部屋のベッドに置いたのか、どうだったのか。
社員証も、生徒手帳もなくて、「何の集団にも属していないわたし」「何者でもない私」になることが、
そんなにばくぜんと不安だっていうことに、やっと気付いたころのお話です。
その後のたくさんの引っ越しを乗り越えて、
子どものままごとの相手もたくさんしてくれました。
何というか、、私にとっては、人生の同志ってところですかね。