ハナシバを植える
昼過ぎまで家にいられた日。久しぶりにばあちゃんに電話をして、何か手伝ってほしいことはないかと聞いてみた。なんとなく気になっていた。
ばあちゃんは、ちょっと考えてから
「ヤマ(の畑)に連れて行ってもらいたいかもしれのう」と言った。
ヤマ小屋のそばに自生しているハナシバを、自宅のそばに移植したいのだという。
ハナシバ(しきみ)は、仏壇に供えるものだ。ばあちゃんは、頼りにしていた兄弟を亡くしたばかりなのだ。
「苗はいくらもあるから、植えてやるよ」と言っていた本人が、供えられる側になっちゃったもんな。と言った。
斜面で踏ん張って、苗をとった。
ヤマの土は、ほんとにホロホロといい土だ。香木なのですがすがしい。
それから、斜面で赤土を少し削り取った。ばあちゃんが削り、私が肥料袋を構えた。
そのとき急に「記念樹になりそうな」などというので、聞かないふりをした。
ハナシバは強いから、茶畑に自生したりもする。でも、供えるにはヤマで自生しているもののほうが「葉が落ちない」とも、教えてくれた。
掘っておいた穴に、苗を植えこんで赤土も入れて、埋め戻した。ばあちゃんがやっと持ってきた水をかけた。
「これくらい可愛がってくれりゃ、つかにゃしょんない」ああすっきりした、とばあちゃんが笑ってくれた。