悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

木を倒す

休日に、家族で建築会社主催のバスツアーに参加してきました。いや、家を建てる計画は正直、ないんですが、そのテーマが気になって。地産地消、その土地でとれる木を使って その土地にあった家を建て、手をかけて育てていこう。そうして森を育て、沈滞する日本の林業を考え、地球環境を考えよう。森と町を有機的につなげよう。そういう趣旨でした。

荒れた針葉樹の森、手をかけ命の息づく森を皮切りに、伐採の現場から製材、関連して製茶業者。最後に建築現場。まさに、まる一日かけて 森から町までの流れを見せていただきました。

中でも、特に印象的だったのは、木を切り倒す現場でした。

70代の自称「おじい」が、「うまくは切れんかも知れんけど、まあ見ててください」。

慎重に方向を見定め、危険がなく木が傷まない場所を選ぶ。まず追い口を打って、方向を修正する。くいのようなものを少しずつ打ち込む音が 森に響く。ヒノキの芳香が立ち込める。めりめりと音を立てて、大木が倒れる。

そばによって見ると、切り口はしっとりと湿っていました。

「このヒノキは実生(植えたのでなく、自然に実が落ちて生えたもの)だもんで、最初はいじめられて苦労しただよね。こっからこれくらい、直径3センチぐらいになるのに、おそらく20年はかかってる。年輪も数えられんもんね。そっからまわりの木よりも大きくなってきたもんで、よく育つようになっただね。」

年輪を見ると、育ちが分かる。数えれば100歳を超えた木でした。ええっ、日清戦争のころ?

そのヒノキがこれまですごしてきた歳月と、

製材業者の『おじい』が、この仕事を始めて以来ずっとその木を見守ってきただろうこと、

そしてその木の命が、今目の前で断たれたこと、

そしてなお、その木がこの先 どこかの家の材となって さらにいき続けること。

「自然木は『あばれる』もんで、柱にはできんけどね」と おじいは笑いました。

おじいはもちろんのこと、製材業者の若い衆も、製茶業の男性も、この日出会った『地に足つけた』人々は、みんなとてもいい表情をしていました。

その夜 なんだか私は頭がぐるぐるしてしまい、木が倒れる場面が目に焼きついて離れませんでした。

「木が倒れるときの音。匂い。そんなものが、皆さんの中に残ればいいなと思います」建築会社の女性は、バスの中で最後の挨拶をそうしめくくりました。(はは)