悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

“おかあさん”

一人暮らしを初めて10年たったころに 住んでいたアパートは、住宅街にあった。玄関を出入りするたびに、隣の一軒家が気になっていた。その家の奥さんはとても感じがよくて、子どもの声が始終聞こえて、庭にはキウイの棚があって、・・・なんだか典型的な、幸せ一家のように感じていた。

ある日、出かけようと玄関を出て、何気なくその家の一階に目をやると、

てきとうに散らかった部屋の窓際に アイロン台が出してあった。

そして、その上に 湯気の立ったマグカップが置いてあった。

それだけなんだけれど

ああきっとそれは「お母さんのカップ」なんだろうなあ。

「ここでいっか・・・お母さん、どうぞ」なんて、誰かが置いたんだろうなあ。

そんな風に、確かな生活感を感じて、じんわりと泣きたい気分になったのを

よく覚えている。

サザエさん症候群”とやらに かかっていたんだろう。家庭のあたたかみが恋しくなっちゃうやつだ。

今でもアイロンがけをしているときなど、そのときの気分をふと思い出したりする。

自分の家庭を持って

「おかあさん」と呼ばれる立場にもなって久しいけれど

「私はちゃんとおかあさんしてるのかな?」と 日々立ち止まってしまう。自信がないんですね、お母さんとしての自分に。

でも あのころの、自分はこの先どうなるんだろう?っていう精神状態から、よきにつけ悪しきにつけ、人生は進んでいるよな、とは思っています。

あのマグカップの光景を しつこく覚えているのは、きっとあれが 私の目指す幸せのカタチのひとつ、だからなんだろうな。(はは)