悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

走ることについて語るときに僕の語ること

村上春樹さんの新刊を読みました。aisbn:416369580x走ることについて語るときに僕の語ること 帯には「村上春樹が、はじめて自分自身について真正面から綴った」とあります。

 そういわれると、村上ファンではない人に「それがどうした」と返されてしまうかな。しかし村上さん読書歴が 人生の半分に迫ろうとしている私には、うなずけるものがある。このごろはあんまり読んでなかったから、えらそういえないけど。それに、よくあるまとまりのない、ひとりよがりのエッセイ集・・・でなくて、走るということをモチーフにして語っています(村上さんの作家歴と、ランナー歴は平行しています)。語り口も、これまでよりシンプルに、より練られているように感じます。

私が興味深く読んだのは、サロマ湖100キロウルトラマラソンに参加したとき以後の、著者の心象の移り変わりでした。まずレース時、体力気力の限界を超えたところに、現実を薄れさせる、哲学的な境地があった。「それってランナーズ・ハイってやつでしょ」と言ってしまえばそれまでだけれど、その境地はきっとどのスポーツでも、どの道でも同じだと思います。似たような経験は、私にも、ある。

そして、そのレース後の虚脱感(ランナーズ・ブルーと村上さんは呼んでいますが)。さらに、そこから浮上しての、数年後の現在。真正面から、丁寧に語られた文章に胸を突かれました。

さまざまな事象やステージを、武骨に受け入れながら、こつこつと自分の人生を歩き続ける。いや、村上さんは走っているのか。

村上さんの表現を借りれば、いくつになっても、人生のどのステージにおいても、テラ・インコグニタ(未踏の大地)は作り出し、越えていけるのだろうな、と思いました。(はは)