悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

82年生まれ、キム・ジヨン

201812-82nenkimjiyoung_book.jpg※書評ページより抜粋 主人公であるキム・ジヨンは一児の母で、IT関連の中堅企業に勤める夫と3人でソウルのはずれにあるマンションに住んでいる。ある日を境に、彼女は突然自分の母親や友人の人格が憑依したように振る舞い始める。いったい何が彼女の精神に歪みをもたらしたのか――。本書はキム・ジヨンの生まれた1982年からその半生を振り返りながら、彼女が幼少期から大人になるまでに経験してきた様々な理不尽や不平等、女性であるがゆえの困難を克明に描き出す。 この本が話題になった時、「キム・ジヨンは私だ」というフレーズがよく聞かれたのを覚えている。私自身もやはりそう感じた…読後感は爽快、といえるものではない。また、韓国の激烈な学歴社会、受験戦争は話には聞いていたものの、文字通り隣国のことで、他人事だったなあと思わされた。韓国は徴兵制があることから、また日本とは違ったかたちで、男性優位な社会の事情があるのだろう。 興味深く感じたのは、小説の中で女性がすべて、フルネームで表記されていることだ。読みながら不思議に思っていたのだが、これには理由があった。 韓国社会では女性は、結婚と共に「個」を失ってしまい、「〇〇さんの母」と単に家族の機能のように扱われる、と解説にある。だからこその呼称なのだと。そして逆に男性は、誰でもないだれかとして描かれ、名前を与えられていない。 1982年生まれの女児で最も多かったのが、キム・ジヨンなのだという。発売すぐに100万部を超えるベストセラーを記録したというこの小説、この先の影響力もたのしみ。