悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

その時しか

高校生時代の最後に、北海道の一人旅を計画した。ユースホステル青春18きっぷを多用して、しかも学割と冬割を併用した安上がりな旅だった。長期で旅行できるのも最後のつもりだったから。たしか5泊以上あったと思う…我ながら怖いもの知らずだった。

1人で宿泊したこともない18歳の娘に、そんなのよく許してくれたもんだ、と親になって思う。

出発の朝、玄関を出る私を、亡父が見送ってくれた。もう松葉づえが手放せなくなっていたけれど、わざわざゆっくり出てきてくれて、一万円札を差し出した。「これでカニでも喰ってこい。そこでしか食べられないものを食べてこい」

その時しかできない体験をしろ、そこでしかできない体験をしろ、というのが、父の教えのひとつだった。その後、私が海外に行きたいといったときにも、すぐに賛成してくれたのは父だった。自分は海外旅行の機会があっても、またそのうち行けると思っているうちに行けない体になってしまった。だから行ける時に行け。その時その場でしかできないことを楽しめ。

その教えは、その後もずっと私の中に染みついている。迷ったときは、今しかできないことを優先に、やる。

さて、時は流れてステージは変わった。

娘がある選択で迷っていたとき、わたしは背中を押した。やりたいんでしょ?今しかできないことでしょ?ワクワクするんでしょ?

じゃあやればいいよということができた。後ろは親が支えればいいことだ。

今もこうやって父に背中を押されて、親として強くなっている。天国の父に感謝。