麦こなし
ちょっと聞きたいことがあって、Kさんちに行ったら、
「ちょうどよいから、麦をこなしてしまうか」と言われた。
しばらく前に小麦を刈って、Kさんちの軒下を間借りして干していた。
我が家は軒が浅くて、雨があたってしまいそうだったから。
Kさんはビールびんを2本と、古畳のおもてをはがしたものを、納屋から出して来た。
そして、小麦の束をていねいにたたいて、脱穀するのを教えてくれた。
たたいたものは、麦わらやごみも入るので、
おおまかに分ける。それを、「そろぼう」というらしい。
そのあと『み』にとって、両手でざっ、ざっと返しながら「ひィだす」。Kさんがやると、見事に麦粒は『み』に残り、殻だけが落ちていく。
「おれだって最初はできなかった。できるようになったと思えば、はぁ、人生も終わりだ」
最後に麦わらは、私があげるといったのに、「畑にいれるとよいから」と、そこにあった稲わらで簡単に縄をない、しばってくれた。
たった200粒の小麦が、1.5キロぐらいになった。
たった200粒の小麦のタネは、昨年の秋からこれまでの間に、実にたくさんのことを教えてくれた。