悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

土が育つ

10年以上前に、ここよりひとつ前の家に引っ越した時の話。庭の土がかたくて、植物が育ちそうにないと嘆く私に、母が言った。

「空家が長かったもんでだら。人が住むと、庭の土もだんだんに良くなるって、昔から言ったもんだよ」

そのときには「ええ~、庭で用足しするでもないだろうに」ほんとかいなと思った程度だったけど、不思議とあたまに残っていた。

アパートの2階からその家に移り、土が近い生活が始まってみると、母のいうことも少しはわかってくるようになった。子どもが摘んで帰ってくる花も、ちょっとした生ごみも、今までだったらゴミとして出していたようなものが、「そうか、 土にかえってくれるのか」と気づいた。コンポストも使ってみた。どうしたものか、ゆずの木も生えてきた。あじさいも挿し木してみた。ちゃんと花が咲いた。

庭の土が良くなるほどには長く住まなかったけれど。

そしてここに越して、歳の多い方たちと身近に接するようになってはじめて、暮らしが本来、もっともっと土に近かったんだなあと思うようになった。そんなことも、知らなかったってことだけど。

土間で煮炊きして、米のとぎ汁だの青菜のゆで汁だの、しゃっと土に撒いていたんだなあ。もったいないが、もっともっと当たり前に実践されていたんだなあ。

先日、80代の方と一緒に畑作業をしたあとに、ずいぶん泥で手を汚してしまった。外の流しで洗おうとしたが、冷たいから中で洗えといわれて中に入った。おばあちゃんはポットのお湯を洗面器に受けて、洗面台にもっていき、そこで洗った水を、自然な動作で、また外にあけにいった。

めんどうくさいとか、ないんだよなあ。私だったら、流しを汚しながら湯沸かし器のお湯を使っちゃうかも。と反省した。

コメをとぐたびに、その時のことを思い出しては、庭にあけにいっています。いまのところ。