悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

103歳になって分かったこと(篠田桃紅)

大正二年生まれの美術家、篠田桃紅。寡聞にして存じ上げませんでした。
年齢を重ねながらも豊かに生きている方の随筆は数あれど、ここまで語彙豊かに、そして含蓄深く、しかも明晰な頭脳で!「老いること」の実感を語ろうとしている良書に出合ったのは初めて。
まず冒頭のジャブがすごい。「私には死生観がありません」ときたもんだ。
若い友人に「死生観は年とともに変わるのか」と尋ねられて前文のように答えたという。
 
『人の領域ではないことに、思いを巡らせても真理に近づくことができません。それなら私は一切を考えず、毎日を自然体で生きるように心掛けるだけです。』
 
何度もうなりながら読み進めたが、ひとつ心に響く言葉をあげるとすれば、彼女が、老いてなお道なき道を手探りで進む。年をとることは創造的だ、老いていくことは「楽しいことではないが、マンネリズムは無い」と言い切っている点。
どうすればこのように日々新しく、好奇心を持って生き続けられるだろう?私は一番のポイントは主体性、自ら舵を取る点ではないかと読み取った。流れに逆らわず諦める(明らかに見る)点は受容しつつも、コントロールを失わない点だ。
彼女の言葉をすくい取ろうとする構成者も素晴らしいのだろう。著者のほかの本もぜひ読みたい。