悠々闊歩

はるかな道を悠々と、闊歩していきます

三流シェフ(三國清三)

この本から学んだことを三つ書いておきたい。


①三國氏は、北海道の寒村の生まれで中卒だ。自ら機会を見出し、自分から手を伸ばし、結果を願いつつもその過程では、今ここでできることを積み上げていく姿勢にとても共感した。

例えば一流ホテルの厨房で働きたいと野望を持ち、無理を承知で訴えた後は、今自分がそこで何をできるかの最大を尽くして、ただ鍋を磨き続ける。


この本を読んでいて、自分の19歳の時を思い出した。とある酒屋でアルバイトしたいと決めて、その店に押しかけ「でも男の子じゃないと」と言われたので、その場でビールの中瓶ケースを持ち上げ「大丈夫です。働かせてください」と訴えたこと。そして今も、じつは「無謀な野望」を持っていて、とある団体のトップに直接自分を売り込んでいる最中だ。

結果を出そうとこだわると、時に焦りに押しつぶされそうになる。でもできることをしたら、結果は天に任せて今できることに集中する。そうすればそのプロセス自体を楽しめる。それを改めて確認した。


②三國氏は初めてのオーナーシェフとなった時、最初の半年間は客が入らなかったという。そこで斬新な料理写真集を出版できたことで流れが変わったのだと。これは今でいう、テクノロジーの利用に当たると感じた。

また、テレビ番組に出演した時には、怒ってばかりのキャラクター付けをされたが「それもありか」と受け入れるしなやかさが功を奏する。そして現在は、なんと登録者数40万のYouTuberだ。この辺りにも成功のヒントがあると感じた。


③氏は、自分はラッキーだった、外国で自分の力を試せたから、と語っている。こんなものはフランス料理ではないと日本の評論家に酷評されても、外国ではクリエイティブだと評価された。

寒村で、手漕ぎ船の上で採れた魚を喰らい、中卒ではじめてハンバーグを食べて感動した。そんなサラブレッドとはほど遠い日本人が作るフレンチ、それが武器になることを、外国の視点から評価されたのだ。

視点を変え、視座視野をひろげれば、今あるものを最大限に活かすヒントが見えてくると感じた。

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表紙ではとんがった20代の著者と現在の著者が、あごひげに手を置いた、同じポーズで対比されている。眉間に深い皺を寄せてギラついた目をした若者と、それよりもやや顎を引き、職人の手の印象が強い現在。しかし目の奥に宿っている光は変わらない。


タイトルに込められた思いも深い。間近に接してきた一流たちに比べれば、出自も経歴も自分はそこに値しない、それは謙遜ではない。ただ同じ姿勢で、食材や料理に対峙したいと願うだけだ。

栄華を極めた著者は、これから迎える70代を、そこにのみ捧げたいと誓っている。


私も、同じような理由で社名を名付けた方を知っている。タイガーというのがその社名だが、カリスマ美容師として名声をはせつつ「自分はまだまだ。トラ刈しかできません」という意味合いで名付けたとお聞きして感動した。

三國シェフと同じ目をした方だった。